はじめに
母は少し変わっている。
母の話を友人にするとたいてい笑いを取ってしまう。
特に、笑わせようと意気込んでいるわけではない。
彼女の存在そのものが奇跡なのだ。
母の名を静子という。
彼女は少なくとも2日に1回は思いがけないことをしてくれる。
当の本人は真剣にマイペースに自分の人生を
謳歌しているだけなのだが。
さて、月日というものは過ぎ去っていくもので、
それと一緒に母の愉快な行動も日々の流れで忘れていく。
貴重な思い出をいかに残していくかを考え、
本日よりブログに母の選りすぐりエピソードを綴っていくこととする。
2014/01/22
筆者 まー
名言対決
海外旅行での教訓
12月30日から1月2日にかけて香港に家族旅行へ行ってきた。
ホテルから新年を告げる花火も見れたし,ちょっと贅沢な食事もした。
たまにはこういうお正月もありだろう。
両親に感謝である。
さて,海外旅行なので当然飛行機に乗っていくわけだが,静子は飛行機でいろんなことを起こしてくれる。
NYへ静子と2人で行ったときもそうだった。
機内食を運ぶCAに,ヌードルかキッシュかを聞かれ
「キッシュ!」と力強く要求を伝えるも,キッシュはすでになくなっており追加のものを解凍中だという。
CAに「待てるの?」と聞かれ,小心者の母は蚊の鳴くような声で「じゃあ,キッシュ…」と答えた。
このとき静子は強く自分に言い聞かせた。
「海外では強気でいかないとダメだ」と。
さて,今回の香港旅行での帰りの飛行機でのことである。
「ちょっと私の後ろの席にタカアシガニが座ってるんだけど」と自分でタカアシガニのポーズをとりながら私に訴える。
頭を垂らし両手を大きく広げている。
隣に他人のおじさんも乗っているので正直やめてほしい。
それでも何のことかと思い後ろを見ると,静子の席の後ろに20代後半ぐらいの日本人の若いお兄さんが座っていた。
彼は背が高く,狭いエコノミー席に座ると前の静子の席を膝で押してしまうのだ。
彼もわざとしているのではないが,不満な表情を見せる静子。
静子の訴えはまだ続く。
「背中がマッサージチェアみたいにボコボコするんだけど」
もう一度言うが,彼はわざとしているのではない。
ただ脚が長いだけなのだ。
静子の表現力とお兄さんの長い脚に感心しながらも,私はのどが渇いていたのでCAのカートに乗っている飲み物を見ながら,何にしようかと思案していた。
私が飲み物を頼んだ後,続けて静子が頼む。
「グリーンティー」
確かに静子はそう言った。日本語発音ではっきりと。
すると手渡されたのはなんとオレンジジュースであった。
日本人が「ウォーター」と言って,「ウオッカ」を渡されるのは良く聞く話である。
これは発音を考えるとわからないでもない。
しかし,静子の場合はどうだろう。
天と地ぐらい明らかに違うものを手渡されている。
が,ここは静子。ニューヨークの教訓を活かすときがやってきた。
今こそ自分の主張をはっきりと通すときである。
どうなるのかを見ていると,タカアシガニのときと同じ不満そうな顔を私に見せるだけで何も主張しない。
タカアシガニのまねを知らないおじさんの隣でできるのだから,飲み物を交換するぐらいできるだろうに。
とにかく,今年も静子にとって良い年になりますように。
うちのオラフ
今年大流行したものといえば,言わずもがな「アナと雪の女王」だろう。
老若男女 ♪レリゴー と口ずさんでいたのではないだろうか。
3Dアニメは食わず嫌いしていたのだが,もともとディズニーの音楽が好きだし,映画も注目されていたので,それならばと観に行った。
しかし,吹き替え反対派なので話題の松たか子を避け,英語版を観た。
どんなものでも話題になっているものはちょっと避けたくなる天邪鬼なのである。
さて,話題のエルサが例の歌を歌うシーンに差し掛かる。
ん?日本語版の歌詞と内容が違う。
これって,「そのままの自分でいいのよー」というポジティブなメッセージというか,単にエルサが自暴自棄になってるだけでは?
そう気づいたときから私はひそかにこの歌をこう呼んでいる。
やけっぱちソング
エルサの アレンデールなんか知らんー 1人で生きてくもんねー どやさー
みたいな感じがひしひしと伝わってくる。
やけっぱちになっているエルサと重なる人物が我が家にも1人。
静子である。
腹筋はどうなったのかを尋ねると,記憶にございませんとばかりいろいろ食べる。
邪魔なので腹筋と書かれたメモを捨てようとしたら,それは阻止された。
仕方ない。私も静子のために立ち上がろう。
ただ,年末の忙しさのため 「let it go バージョン」を作れなかったのが悔やまれる。
そして,暗い動画になったことも悔やまれる。
今の私こそ やけっぱちソングこと「let it go」がぴったりかもしれない。
でくのぼうと呼ばれ
今年もあと残りわずか。
台所のテーブルをふと見ると静子のメモがあった。
内容はというと,いわゆる「今年の目標」を可視化したものである。
そういえば,今年の初めに書いていたような気がする。
去年から習い始めたフラダンスは教室に毎週通っているし,韓国語も流行っていたときに手をつけてしまい,使う機会がまったく無いながらもオンラインレッスンを続けている。
問題はその下の二文字。
そう。
腹筋である。
「着やせ」という言葉があるが,静子は服では隠せないほどの鍛えられていない腹部を持っている。
そして,そんな腹ニモ負ケズ,家族ノ視線ニモ負ケズ たったの一度も腹筋をしないまま2014年が終わろうとしている。
Happy Cristmas
"少し太め"という部分しかあっていないではないか。
静子は私に小さな紙袋を渡し、その場を立ち去った*1。
紙袋の中には直方体の箱があり、開けてみると、それはミキモトのベビーパールがついたボールペンであった。
小ぶりで可愛いそれを私はいつもバッグに忍ばせている。
Happy Christmas !
*1:本当は枕元にこっそりとおきたかったらしいが、私が起きていたためにそれは叶わなかった。